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文字列の部屋

枯野にて

2001.12. 田野呵々士

良い服を着て 人のふりして
立ってれば いいことあるわよと
作ってくれた人が言っていた

女に恋しても相手にされず
鳥を好きになっても逃げられて
騙されて偽っていたことに気付く

ようやく傍らに花咲いたと思えば
これがなんと悲劇の主人公の達人
幕が降りれば悪役に用はない

信じるなんてことは自分勝手で
傲慢なことだと我に言い聞かせ
雪煙吹き荒ぶ枯野に一人佇む

夜通しの涙 氷の柱となり
不思議なことに女の姿となった

見詰め合う彼女と案山子(かかし)
暫らく無言の時が流れ
夜明けの青白い光に我に還る
それは昔の片思いの相手だった

誰かに恋したことなんて
もう忘れかけていた彼だが
好きだったことを打ち明ける

陽は昇り枯野を金色(こんじき)に染めれば
見る間に融けゆく彼女の体
手を取り合い頬を濡らす別れ

最後は何も残らなかったけれど
この日から案山子は誰からも
騙されることは なくなった

文字列の部屋  客間

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