私が子供の頃だと、各町には小さな豆腐屋さんが必ずと言っていいほど一つはあった。そこには水が張られたタイル張りの水槽があって、その中に一丁単位に切られた豆腐が沈んでいた。その水槽には新鮮な水が注ぎ込まれており、水が絶えずチョロチョロと溢れ出ていた。その豆腐は、お客さんの注文に応じて、一つ一つすくい上げて売られていた。
また引き売りも行われており、夕方になって豆腐屋さんの法螺貝(ほらがい)の音が聞こえて来ると、空の鍋を母親から持たされて買いに行かされたものだ。その法螺貝を私が吹くと、豆腐屋さんが出すような立派な音ではなく、北風のような音しか出せなかったのだが……
このように、日本人(韓国や北朝鮮や中国や台湾の人も多分同じことだろう)には、豆腐にまつわる幼いときからの記憶が少なからずあるのではないだろうか。
我が家では、和食や中華といった様々な料理に幅広く使用されているが、最も多い食べ方がこの冷奴だ。その理由は簡単。とにかく手間が掛からず、あっという間に出来上がるから。しかも旨い!
但しこれは、豆腐そのものの味がはっきりわかってしまうので、下手な豆腐は使えない。大都会ならともかく、高度成長期の大量生産主義に流されず、本物の味を頑固に守り続けている店が、どの地域にもあるはずだ。そのような豆腐を使うことをお勧めする。
豆腐にもいくつか種類があるが、我が家で冷奴といえば木綿豆腐と決まっている。絹ごしだと、箸でつまんでもスルッと逃げてしまったりするし、歯ごたえがあった方が好きだからだ。
それでは、その作り方をご紹介しよう。(「作り方」などという大げさなものでもないが……)