柿酢の作り方
2003.11.28
更新 2023.11.05

柿酢とは
柿の実を市販の酢に漬け込んだものと、柿の実自体を発酵させたものがあるが、ここでご紹介するのは本格的な醸造をする後者の方である。
また醸造するにしても、発酵するための菌が主体であるか、それを仕込む人間が主体であるかによって作り方が違ってくる。具体的に書くと、自然の気温によって自然の菌が自然に作り出すものを人間が少しお手伝いをして有難く頂戴するのか。それとも、人間の都合で発酵を早めるためにミキサーなどの電動調理機を使ったり、不自然な温度管理をしたり、自然界にはない砂糖やイースト菌などの食品添加物を使用するのか。要するに、自然食品にするのか、工業製品にするのかということだ。ここでご紹介するのは、自然食品である前者の方だ。
法律上の問題
- 酒税法
酒税法で定義されている「酒類」の中に「酢」という文字は見当たらない。しかし、「酢の製造の過程で発生するアルコールは除く」と明記されているわけでもない。そのため、酢の醸造をするなら、この法律のことを知っていた方が良いだろう。
第1章
第3条
(前略)
24. 酒母 酵母で含糖質物を発酵させることができるもの及び酵母を培養したもので含糖質物を発酵させることができるもの並びにこれらにこうじを混和したもの(製薬用、製パン用、しようゆ製造用その他酒税の保全上支障がないものとして財務省令で定める用途に供せられるものを除く。)をいう。
25. もろみ 酒類の原料となる物品に発酵させる手段を講じたもの(酒類の製造の用に供することができるものに限る。)で、こし又は蒸留する前のもの(こさない又は蒸留しない酒類に係るものについては、主発酵が終わる前のもの)をいう。
(後略)
とある。これらの()内の但し書きが重要なポイントになってくる。
製パンなどの際にもアルコールが発生するが、「酒税の保全上支障がないものとして財務省令で定める用途に供せられるもの」として除外されている。また、その原料は「酒類の製造の用に供することができるものに限る」ということだが、米や麦ならともかく、柿がそれに該当するとは思えない。
また、全文を探しても「酢」という文字が出てくるのは、たった2箇所だけしかない。
第8章
(前略)
第44条 酒類製造者が第7条第1項ただし書の規定により製造免許を受けないで製造した酒類を当該製造場から移出しようとするときは、政令で定める手続により、その製造場の所在地の所轄税務署長の承認を受けなければならない。ただし、酒類製造者が自己の他の酒類製造場において製造免許を受けている酒類の原料(移出する製造場において製造免許を受けている酒類と同一の品目の酒類の原料とする場合に限る。)とするための酒類で、かつ、第28条第1項の規定の適用を受けて移出する場合については、この限りでない。
2 酒母又はもろみの製造者は、酒母又はもろみを処分し、又はその製造場から移出しようとするときは、政令で定める手続により、その製造場の所在地の所轄税務署長の承認を受けなければならない。ただし、次に掲げる場合については、この限りでない。
1.第8条各号に規定する者が酒母又はもろみを当該各号に規定する目的に使用する場合
2.酢の製造業者が酒母又はもろみを酢の製造に使用する場合
(後略)
この一行だけなのである。
ネットで調べてみると、酢の製造業者は「酒母又はもろみの製造免許」というものを取得している。これは、原料に酒類の製造に供することができるものを用いた、販売することが目的の製造業者のための免許なのだと思うので、柿を用いた自家消費のための酢の製造に関しての法的な規制は、明確に定まっていないということになる。だとすれば、個人家庭で柿酢が作れるような政令を、「製パン」と同様に是非ともはっきりと定めて頂きたいものである。
私は現行の法律に違反したり、そのようなことを他人に勧めるは気はないので、ここで述べていることは販売目的ではなく、あくまでも自家消費のためのものでなければならないと宣言しておきたい。
- 食品衛生法
食品を製造・販売するには、その営業所所在地を所轄する保健所衛生課に、食品の製造・販売・処理業の許可を申請しなければならないことになっている。自家消費だけのために製造するなら、その必要はない。
なぜ柿なのか
糖分を比較的多く含んでいるものであれば、どの農作物でも酢を醸造することが出来るはずだ。しかし一般家庭でそれをするなら、柿が最も適していると思う。その理由は主に五つある。
- 発酵に必要な天然の菌が付いている
どんな野菜や果物でも、表面に多少なりとも付いているものだと思うが、無農薬の柿の場合はそれが確実だということだ。これが酢の発酵には欠かせないのである。

菌は皮の表面に付いている
- 糖度が適度な範囲にある
酢の発酵には糖分が必要だが、その濃度のことを糖度と言う。糖度が低過ぎれば酵母菌が繁殖しないし、逆に高過ぎればアルコール濃度が高くなって、酢酸菌が繁殖できなくなる。柿の場合、その糖度が適度な範囲にあるようだ。
- 虫がいない時期に発酵する
夏や初秋に熟れる果物で醸造すると、一般では「コバエ」と呼ばれているショウジョウバエが、その容器の中に進入してしまう危険性が高い。これが産卵すると小さなウジ虫が大量に発生して酵母菌を食べてしまうので、発酵が止まってしまう。
ところが、晩秋に熟れて仕込んだ柿が発酵する頃には、もうこの虫は飛んでいない。ちなみに、新潟県の山間地に位置する我が家では、1996年頃から毎年のように自家用の酢を作っているが、梅ではそれで失敗しても、柿のものに入られたことはまだ一度もない。
- 経済性
農家の場合だと、市場には出荷しない、いわゆる「傷物」「B級品」「2級品」「規格外」といった農作物で酢を作れば、その分費用が安くなるわけで、これは一般家庭でも同じことだ。せっかく高いお金を出して買った米や果物を酢にしてしまうよりも、なるべくなら無料もしくは安価で手に入れたもので作った方が良いだろう。
我が家にはたまたま、このような渋柿の木があり、この時期に無料で大量に手に入る果実といえばまずこれだ。また、わざわざ手間を掛けてこの渋を抜いても一度に食べきれないが、酢にしてしまえば長期間保存することが可能なので、その醸造には基本的にこれを用いることにしている。

- 安全性
実が熟れて真っ赤になっているのに誰も収穫しないような柿の木を、11月も中旬を過ぎるとあちこちで目にするが、このような木は日本全国いたるところにあるはずだ。収穫する予定がない作物に農薬を散布することはまずないので、そこになっている柿は多分無農薬のはず。それなら安全性の点でも優れているというわけだ。
このような柿の木が自分の家の庭に生えていて実を付けていれば最高だが、もし近所にあれば、その持ち主を探して交渉してみよう。例えば、ダンボール一箱で千円とか、作った柿酢の半分をお礼に進呈とか、持ち主の代わりに収穫してあげてその半分を手間賃として頂くとか、交渉の仕方はいろいろあると思う。そのようにして柿の所有者と良好な関係を作っておけば、毎年無農薬の柿を安価もしくは無料で入手にすることも夢ではない。都会の人でも紅葉見物などで地方に出掛けたときが、そのチャンスだ。
柿はあなたを待っている!
材料

ひたすら柿だけだニャ~~!
柿。
我が家では、ただひたすら柿。
カビや腐敗を防ぐために焼酎を添加する方法もあるようなので、それを試してみたら、アルコールのために酵母菌が死んでしまい、発酵が止まってしまった。
試しにドライイーストを入れてみたこともあったが、物凄いスピードで発酵が進み、最後は酢でなく、なんとただの水になってしまった!!!
また、これは自分の経験ではないが、渋柿でドライイーストを入れた場合、すごく渋い柿酢が出来上がってしまったそうだ。これは私の推測だが、ドライイーストの発酵はとても速いので、柿の渋が抜ける前に酢になってしまったんだろうと思う。
考えてみれば、ドライイーストなどなかった江戸時代にも柿酢は作られていたわけで、なるべく自然な状態で作る方が上手くいくと私は思う。柿の皮に付いている天然の菌による柿100%の醸造で私は失敗したことがまだ一度もなく、それなりに時間は掛かるが、私にとっては最も確実な方法なのである。
なぜ柿なのかで述べた条件を大方満たしていれば、もちろん柿以外の果物、例えばブドウや林檎や蜜柑でも酢が作れることになる。
また、他の果物や干し柿のような乾燥果実も、カビが生えたり変質したりさえしていなければ、柿に混ぜることができるはずだ。但しその際は、混ぜた物によって全体の糖度が大幅に変化しない程度の量にすること。
発酵の仕組み
ここでご紹介する方法は、ワインビネガーの製法と基本的に同じだ。
果実の皮の表面に付いていたり空気中に浮遊している天然酵母菌によって、果実の糖分がまずアルコールに変化して柿ワインになる。次にそれが、やはり天然の酢酸菌によって酢になるという、二段構えの発酵だ。
ちなみに、日本の一般市場で出回っているワインには「酸化防止剤」という添加物が入っているので酢酸菌が繁殖できない。そのため、このようなワインから酢を醸造することはできない。
酢に適した品種
全種類試したわけではないが、特にないはずだ。ただ、前述したような発酵の仕組みから、糖度の高い柿を用いれば、それだけ純度が高くて水っぽくない酢が作れるだけだと思う。
ちなみに、「甘柿」「渋柿」という呼称は、糖度の高い低いのことではない。柿に含まれているタンニンという渋味の成分が、甘柿は不溶性なのに対して渋柿は水溶性なのだそうで、それが唾液に溶けるために渋く感じるのだそうだ。完熟したらそれが不溶性に変わるので、ここでご紹介する方法なら渋柿を使用しても全く問題ないし、甘柿と混合しても構わない。
むしろ意外なことに、甘柿よりも渋柿の方が糖度が高いそうなので、どちらかと言えば渋柿の方が酢を作るのに適しているということになる。
我が家では基本的に、上左の画像のような八珍という渋柿の品種を用いているが、それが足りないときには、上右のような小型の野生渋柿も併用している。表面の黒い傷は枝などに擦れて出来たものだと思うが、このような傷があっても酢の醸造には全く問題ない。
酢の味と香り
前項でも述べたように、渋柿の「渋」は完熟すると抜けてしまう。その酢を他の原料で作った酢と飲み比べると微かな渋味を感じるが、それは「気のせい」と言ってもいいほど微量なものだ。
柿は元から酸味が少ないし、味にも香りにもあまり癖がないので、ブドウやリンゴや梅で作られた酢よりもマイルドだ。しかし、小魚を3日も漬け込んでおけば小骨が柔らかくなって抵抗なく食べられるようになるし、常温で保存しても何年も腐らないだけの酸味はある。
酸度をちゃんと測定したことはないが、一般に市販されている穀物酢の酸度が4.4~5.2度、ブドウ酢が5.1~6.0度ということからすると、この柿酢の酸度は大体4.5度くらいだと思う。
効能
我が家で使っている酢が市販のものではなくて、自家醸造であるという理由はいくつかある。まず出費を減らしたいから。次に作るのが楽しいから。そして美味しいから。
そのため、健康的な効能とかには今まであまり関心が無かったのだが、近頃世間ではそれが注目されてきたようだ。しかし、自分で立証したわけでもない情報を転載するのは気が引ける。そこで、そのような知識を得たい方は、まず「柿酢 効能」などのようなキーワードで検索してみることをお勧めする。きっと、それにふさわしい専門的なサイトが多数ヒットすることと思う。
それでも、最初から「柿酢 効能」で検索してこのページを訪れてしまった人のために、自分が知っていることだけでも述べておこう。
晩酌の焼酎のお湯割りに混ぜて、合わせてお猪口一杯ほどの量を飲んだら、翌日の寝覚めが非常に良かった。その理由は推測でしかないが、柿酢にはポリフェノールの一種であるタンニンという物質が豊富に含まれているそうで、これには血中のアルコール濃度を下げる働きがあるそうだ。そのため、普段なら朝でも少し残っているくらいアルコールを飲んでも、それが「いつもと違う!」と思えるくらいに感じられたのだろう。
また、ポリフェノールには動脈硬化を防ぐ効果もあるようだ。
用途
酢の物、寿司、しめ鯖、鯵の南蛮漬などの和風から、酢豚などの中華風、ドレッシングなどといったように、市販の穀物酢や米酢と同じようにして使える。また、ブドウの風味とはやや異なるが、その仲間の果実酢なので、白ワインビネガーの代用としても使える。
完成した柿酢には殺菌作用があるので、わざわざ煮沸する必要は無く、少量なら生で飲んでも構わない。但し、ワインの代用として1合(180cc)ほど飲んだら、お腹がビックリしてトイレに駆け込んだことがあった。この程度の酸度の酢でも胃の粘膜を傷付けることがあるそうなので、希釈しないで飲むなら、お猪口1杯以内に留めておくべきだ。
食用だけでなく、これも市販の酢同様、ヘアーリンスや殺菌剤として使える。我が家ではまだ試していないが、農業用の殺菌剤(農薬)として使っている方もおられるようだ。
作るための容器や道具
材質が合成樹脂だと、そこからアルコールや酸に溶ける物質が溶け出す恐れがあるし、金属だと錆びて、それが品質に悪影響を及ぼす。そのため、釉薬(うわぐすり)が塗られた焼き物やガラス、木や竹や木綿が適している。
- 発酵させるための容器
果実酒用の口が広いガラス瓶で良いが、大量に仕込むのなら焼き物の瓶(かめ)が最も適している。いずれも、ホームセンターなどで手に入るはずだ。
- 潰したり掻き混ぜたりする道具
このような木か竹のへら一本があれば済むことだが、もし無くても、すりこ木と、オタマで代用出来る。

- 濾すための道具
笊と、すくうためのオタマと、それを受けるための鍋は、一時的に使用するだけなので、金属性でもステンレスのものなら構わない。銅や鉄はすぐに錆びが出て、味にその影響が出るので使用不可。
布は木綿の豆絞りかガーゼが良い。わりと強い酸性なので、派手に着色された布や化学繊維のものは使用不可。
- 保存容器と道具

光をある程度遮断して口が狭く、取り扱いが楽なので、保存容器は茶色の一升瓶が最も適している。
そこに詰めるには漏斗(ろうと)を使ってもよいが、我が家では酒を注ぐための急須に一旦鍋の酢を移して、その細い口から一升瓶の中に注いでいる。

最後に濾す段階で不純物が少なく仕上がっていれば食卓用のガラス容器も使えるが、不純物が多いものだと、その細い口が詰まったりする。
作り方
- 柿を入手する
- 完熟している無農薬のもの
渋柿の渋の成分タンニンは水溶性だが、果実が完熟すると不溶性に変化するので渋味を感じなくなるのだそうだ。また、糖分が多ければそれだけ濃厚な酢になる。そのため、なるべく木に付いたままで完熟した渋柿を手に入れる。特に、真っ赤になって多少柔らかくなっているものは、潰し易いこともあるので大歓迎。
また、ここでご紹介している方法では皮ごと使うので、必ず無農薬のものにする。
このような条件を満たしている柿を一般のスーパーで手に入れることは難しい。ところが、ネット通販ではそうではない。試しに「無農薬 完熟 柿」で検索してみると、意外と多く出品されていることがわかる。付加価値や送料などで多少割高になるが、そのような柿を使ってみても良いだろう。
- 量は?
一個の柿でも小瓶の中で発酵させることができるが、そこから取れる酢の量はごく微量になる。ちなみに我が家では、毎年15~20kgの柿を収穫し、そこから3~4升の酢を取って、年間の酢の需要の100%を満たしている。
- 傷の有無は?
皮の表面に黒い傷があっても全く問題無いが、皮が破れている場合は、そこからカビが発生することがあるので、なるべくなら避ける。
- 皮の汚れは?
前述したように、柿の皮の表面に付いている酵母菌と酢酸菌を利用して発酵させるので、無農薬の柿なら洗う必要はないし、皮を剥いてはいけない。もし無農薬でない柿を使用する場合は、皮を丹念に洗うか剥くかすることになるが、その場合はドライイーストを添加した方が確実に成功すると思う。それによる作り方は、他のサイトが数多く紹介しているので、そちらを参照されたい。
鳥の糞や自動車が巻き上げる粉塵などの付着が気になるようなら、水で軽く洗ってもよいが、乾燥させて表面の水分を必ず完全に除去すること。酵母菌が落ちてしまうので、なるべく布では拭かない方が良い。
この下の画像は正常な皮と白カビの生えた皮の違い。

いずれも無農薬の柿。左のものは正常な表面。そこに薄っすらと白く着いているのはカビではない。一方、右のもの上部の白いものはカビで、皮が破れたところから発生している。
同じ白色でも、カビは綿のような繊維状になっているので、容易にその見分けが付く。
- ゴミが付いたヘタを取る
生育中に手入れをしていない柿だと、ヘタに小さなクモの巣や虫の死骸などのゴミが付着していることがよくある。そのような不純物は味に悪影響を及ぼすので除去する。ゴミを一つ一つピンセットで取り除いていると手間が掛かるので、ヘタごと除去する。
包丁やナイフの刃の根元を柿の実とヘタの隙間に入れて、実をクルッと回すと効率良くもげる。

- 発酵させるための容器に詰める

ここでご紹介している画像は、2008年11月7日に収穫して、その日のうちに容器に詰めたもの。
へたの付いていた方を下にして、なるべく隙間の無いよう柿を容器に詰めていく。皮の切り口が上を向いていると、そこに白カビが発生することがよくあるからだ。容器の外で熟すのを待っていると、その間カビの菌にさらされることになるので、熟しているものもいないものも全部詰める。
後で潰したときに量が減るので、潰していない段階では容器一杯に詰めても構わない。
詰め終えたら、虫や埃の侵入を防ぐために蓋をする。新潟県下の標高約300メートルの山間地に位置している我が家では、このページの「容器や道具」の項目の画像のように木の蓋を乗せているだけだが、これだと温暖な地域ではショウジョウバエが進入してしまうので、大きめの紙か布で容器の口を覆い、その周囲を紐でしっかりと括っておく。
ただし、酵母菌の発酵では糖分をアルコールに変える際にガスが発生するし、酢酸菌がアルコールを酢に変える際には酸素を必要とするので、ビニールなどの通気性の無い物で密閉してはいけない。
- 保管する
特に温度管理をする必要は無い。我が家ではカビやショウジョウバエを避けるために、一貫して暖房のされていない室内に置いている。その気温は摂氏マイナス1度~プラス10度、平均プラス5度。糖分やアルコールのため、マイナス1度や2度くらいでは凍らない。
直射日光や雨が当たらなければ、ベランダや軒先などの屋外に置いても構わないが、狸やカラスなどのいたずらには注意。
この段階でそのまま放置しておくと、柿が自然に潰れて汁が出て、柿の大部分はその中に沈むことになり、1~2ヶ月経つと、発酵して出た泡に押し上げられて浮かんでくる。液の表面に白っぽい幕が張ったり、潰れた柿の上にコンニャク状またはゼリー状の塊りが出来ることがあるが、臭いを嗅いでみてアルコールや酢の臭いがしていれば、それは雑菌の侵入を防ぐ柿酢の味方なので取り除く必要はない。
このようにして放置しておいても酢になるのだが、それだと完成するまでに比較的長い時間を要するし、初期の段階で汁の上に露出している柿にカビが発生することがあるので、ここではより確実に成功する方法をご紹介する。
- 潰して掻き混ぜる
発酵容器に詰めてから10日くらいしたら、熟れて柔らかくなっている柿を木べらなどの先端で割るようにして、ごく大まかに潰しておく。まだ実が硬いと思わず力が入り、容器を破損する恐れがあるので、そのような柿は容器の中で自然に柔らかくなるのを待つ。カビの菌は酵母菌が作るアルコールに弱いので、少しでも早く発酵させて全体をカビの危険から守るためだ。

このくらいしておけば、あとは自然に潰れる。
ここに、生の柿を食べたときにむいた皮や、干し柿用に収穫したはいいが、水を入れた風船のように柔らかくなっているものなどを混ぜても構わない。

それからは、2~3日おきに木べらなどで底の方からしっかりと掻き混ぜながら潰していく。これによって発酵が均一になり、酵母菌が柿全体を占領してしまうので、カビの発生を防ぐことができるのだ。もし表面にカビが生えてしまったら、その部分だけ取り除いて良く掻き混ぜればよい。
この下の画像は、容器に詰めてから16日後に掻き混ぜた後の様子。

ヨーグルトのような良い香りがしている。この段階になると、滅多にカビが生えることはないので、もう2~3日おきに掻き回す必要はない。
この下の二つの画像は容器に詰めてから一ヶ月後のもの。

左は蓋を開けた直後の状態。発酵の泡によって柿が押し上げられて浮かんでいる。やや乾燥しているその表面からは、既に強いアルコール臭がしている。これがカビの発生や腐敗菌の進入を防ぐのだ。但し、ショウジョウバエは、この臭いに寄って来るので油断するべからず。これを掻き混ぜると右の画像のようになる。泡が盛んに出ているが、食パンのような香りなので、内部はまだアルコールになっていないということがわかる。
ちなみにこの段階では、天然酵母菌が旺盛に繁殖しているので、この汁を利用してパンやピザの生地などを発酵させることもできる。
- チェックポイント
柿酢作りには、主に三つの関門がある。我が家で予想される失敗確率の高い順に並べると、カビ、ショウジョウバエ、腐敗菌になるが、気候やその家の環境によってこれは異なってくる。ちなみに、我が家と同じ地域にある別の家の2007年の状況では腐敗菌がトップだった。
- ショウジョウバエ
様子を見るために蓋を開けてみて、まずショウジョウバエが飛び立たないかと、その幼虫である小さな細長いウジ虫が表面で動いていないかを確かめる。
このウジ虫が発生してしまった場合、殺虫剤は人体にも影響するので使えない。
虫が少量しかいない場合には、柿を鍋に移して加熱し、摂氏65度を30分間ぐらい持続させると殺すことは出来る。しかし、当然のことながら酵母菌も一緒に死んでしまうので、40度くらいに冷めてから新たに菌を加えなければならない。また、たとえ少量ではあっても虫の死骸という動物性蛋白質が加わることになるので、品質の低下も免れない。
その一方、虫が大量に湧いてしまった場合だと、ウジが酵母菌をたくさん食べてしまうし、その排泄物によって腐敗菌が繁殖する。そのため残念ながら、捨てるか畑の肥やしにするしかないだろう。
とにかく、その成虫であるハエを入らせないことに、細心の注意を払うことだ。これがいなければ第一関門突破。
- 腐敗菌
次に臭いを嗅いでみる。ヨーグルトのような臭い、食パンのような臭い、セメダインのような臭い、アルコールの臭い、白ワインのような臭いなら、正常に発酵が進むと、いずれも最後は酢の臭いに変わるので大丈夫だ。生ゴミのような臭いがしていなければ、失敗していないと見ていいだろう。それなら第二関門突破。
- カビ
初期の段階で掻き混ぜていないと、柿の表面に白か青のカビが生えることがある。カビは綿のような繊維状なので、同じ白色でも有用な菌との違いを見分けることが出来る。
少しぐらいカビが生えても大丈夫だ。その部分だけ除去して良く掻き混ぜ、一日一度掻き混ぜながら数日間様子を見る。その後数日間放置してみて、もうカビが生えないようなら、酵母菌がカビの菌に勝ったということなので、第三関門突破。
カビが大量に発生して、汁にまでカビの臭いが付いてしまっている場合は、全体がカビの菌に占領されてしまったということなので、残念ながら失敗している可能性が高い。
- 味見をする
容器に詰めてから1ヶ月以上したら、第一回目の味見をする。
空気に触れている表面から先に酢になっていくので、下の方はまだそうではないことが多々ある。そのため、まず掻き混ぜてから臭いを嗅いでみる。カビもしくは生ゴミの臭いがしていなければ失敗していないはずなので、今度は汁をお玉などですくって味見をしてみる。それが白ワインのように甘酸っぱければ確実に成功している。そのアルコールによって、気分がフワーッとなってくるかもしれない。それが好きな人は、もう少しぐらいこの味見をしても許されるだろう。
この「フワー」の段階で発酵を止めてしまおうと思えば、これを濾してその汁を一升瓶などに詰め、65度30分間程度の湯煎をすればよいが、それを無許可ですると法律に引っ掛かる。酒税法第7条、第54条によれば、酒類の製造免許を受けないで酒類を製造した場合は、5年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられるほか、製造した酒類、原料、器具等は没収されることになるので気を付けよう。
この段階にまで正常に発酵が進んでいれば、この後は放っておいても酢になるはず。数日おきに掻き混ぜれば、それだけ早く完成するだけのことで、早ければ正月明け、遅くとも3月始め頃には、アルコールがほぼ完全に酢になるはずだ。
アルコールの臭いと酢の臭いの違いが分かりにくければ、台所から実物の酒と酢を持って来て、まずそれらの臭いを嗅ぎ、次に柿を仕込んだものの臭いを嗅いでみればわかると思う。アルコール臭がしていれば、それはまだ完成していないということだ。

仕込んでから約3ヵ月半後の、翌年2月20日の状態。ほぼ完全に酢になっている。
- 濾す
完全に酢になっていることが確認されたら、濾(こ)して精製する。「保管する」のところでも述べた、表面の白い幕やコンニャク状の塊は、柿酢の副産物なので一緒に濾しても構わない。

我が家では、この上の画像のように、ステンレス製の鍋の上にステンレス製の笊を置き、その中に発酵した柿を入れて、汁が自然に下に落ちるのを待つだけだが、一旦このように濾してから、その絞りかすを取り除き、今度は笊の上に布を敷いてもう一度濾すと、不純物がより少ないものに仕上がる。最初から布ですると、布の目に柿の繊維が詰まってうまく濾せなくなる。ネットで見てみると、そのようにしてなかなか濾せないので、思わず力を入れて絞ってしまうことがよくあるようだが、そうすると白く濁ってしまうようだ。

昔ながらの造り酒屋や醤油蔵を見学された方ならお分かりになると思うが、いずれも自然の力によってゆっくり濾している。
これには半日から1日ほど掛かるし、量が多いと何回かに分けなければならないが、この上の画像のように柿の上に皿などを置いて、その上から重石をすると早く濾せる。但し、いきなりこれをすると、笊と皿の間から柿がはみ出てしまうので、ある程度濾してからにした方が良い。
いずれにせよ、不自然な力を加えて絞るのではなく、このようにしてなるべく自然の重みで濾すようにすると、それなりに時間は掛かるが、比較的透明度の高い物に仕上がる。

左が濾した直後の柿酢、右がその約1年後。熟成するにしたがって色が濃くなるが、不純物が保存容器の底に沈むので透明度は増す。
我が家ではこの搾りかすを、肥料の足しにでもと思って、大きな柿の木周辺の雪の上に捨てている。しかし、木が小さかったり地面の上に直に置いたりすると、その根がやられてしまう可能性がある。わりと強い酸性なので、必要があれば石灰や木灰などのアルカリ性肥料で中和する。
その一方、これは酒粕の糖分とアルコール分が酢に置き換わったようなもので、皮を取り除けば、食物繊維豊富の「おから」のような食材となるはずだ。試しにうどんの汁に入れて煮込んだら甘酸っぱくなり、そこに唐辛子と胡椒を加えたら、なにやらタイ料理のような味になった。
-
保存容器に詰める
完全に酢になってしまえば、その酸によって雑菌は繁殖することが出来ない。そのため、この段階になれば、わざわざ湯煎などによって強制的に発酵を止めたり殺菌したりする必要はない。要するに、この酢自体が殺菌剤になっているのだ。
保存する容器は茶色の一升瓶が最も良い。日本酒や焼酎などのアルコール類か酢が入っていて、空いて間も無いものであれば、中は洗わずにそのまま使っても構わない。もし内部を洗った場合には、必ずその水分を完全に除去すること。そこに、漏斗(ろうと)などを用いて詰める。
ここからは、発酵の段階とは逆で、容器を密閉しなければならない。そうしないと酢の気が抜け、やがて水になってしまうからだ。
但し、発酵にむらがあり、酵母菌の発酵が終わっていないと、そこから発生するガスのために栓が飛ぶことがある。そのような場合は、栓を斜めにしておいて隙間を作っておき、この容器の中で酵母菌の発酵を終了させてしまえば、その後栓で密閉してもそれが飛ばなくなる。その際、ショウジョウバエが中に進入して産卵すると、ウジ虫が発生するので注意すること。
保存
一般に市販されている酢同様、冷暗所にて保存する。我が家では、台所の流し台の下の戸棚に入れている。そうすれば、少なくとも2年はもつ。それまでに消費してしまうからだが、知人宅では、3年もの5年ものといった柿酢があると聞いた。
酢酸菌がまだ生きていると、その表面に白い幕を張ることがある。その臭いを嗅いでみて、カビや腐敗の臭いがしていなければ、それは保存料無添加の味噌や本醸造醤油の表面に張られる幕と同じく、菌の「コロニー」と言われるものなので無害だし、放っておいても大丈夫だ。
お疲れ様でした! 長いあいだ大事に育ててこられた、あなたの柿酢を味わってください!
ご注意
- 酒類の製造免許を受けないで酒類を製造することは、たとえ販売しなくても酒税法で禁じられています。ここでご紹介しているのは、あくまでも酢の作り方です。
- 作った酢を販売する場合は、食品の製造、販売、処理業ということになるので、保健所への営業許可申請が必要になります。また、「酒母又はもろみを製造する者」に該当する可能性もあるので、それなら所在地を管轄する税務署から、その免許を受ける必要があります。
- 発酵の段階ではアルコールが含まれていることもあるので、お酒を飲めない方や飲んではけない方は、絶対にその「味見」をしてはいけません。
- 「味見」し過ぎると、お腹の中でも発酵するので、オナラがたくさん出ることがあります。
- これらの情報によって生じたトラブルや損害に対して、当サイトでは一切責任を負えません。物品の売買、それに伴う免許等の取得、食品の加工・保存・衛生管理などは、ご自分の責任に於いて行なって下さい。
よくあるご質問
Q:笊で濾した酢が濁ってしまいました。それを取り除く方法はありますか?
A:濁り方によっては、あります。
正常に発酵した柿酢の濁りは害のある物ではありせん。しかし、大手メーカーが機械で製造した酢に外見を近付けたければ、いくつかの方法があります。
まず、発酵の具合や強い力で絞った場合に白く濁ることがあります。そのような場合は、濁りの粒子が細かいので難しいです。
その一方、柿の繊維による茶色っぽい濁りの場合は、濾した笊から柿のカスを取り除いて笊を良く洗い、今度はそこに木綿の布か目の細かいガーゼを敷いてもう一度濾すと、透明度が増します。それよりもっと透明にしたければ、それを一升瓶に詰めてから10日ほど経過した時点で見てみます。もし、濁りの成分が下に沈んでいたら、その上澄みを別の容器に移せば、濁りはさらに取り除けます。
Q:カビが生えてしまいました。失敗したのでしょうか?
A:手遅れにならなければ修復することが出来ます。
初期の段階で表面に少しだけ生えたくらいなら修復する方法があります。詳しくは、
こちらをご参考になさって下さい。
但し、汁の臭いがアルコールや酢ではなくカビの臭いになっていたら、全体がカビの菌に占領されているということなので、残念ながら手遅れです。
Q:干し柿でも出来ますか?
A:干し柿だけでは出来ないと思います。
干し柿の場合は皮を剥いているので、柿の皮に付いている有用な菌がありません。
また、干し柿の糖度は生の柿よりもずっと高いので、たとえ酵母菌で発酵したとしても、それによるアルコール濃度が高過ぎて酢酸による発酵をしません。
そのため、干し柿単独で柿酢は出来ないと思います。
Q:干し柿を混ぜても出来ますか?
A:入れ過ぎると出来ません。
生の柿の糖度が、柿酢作りには最も適していると言われています。ところが、乾燥した果物を入れ過ぎると糖度がその範囲を超えてしまい、アルコール濃度が高くなり過ぎて、酢酸発酵しなくなる可能性があります。
前のご質問への答えも、ご参考になさって下さい。
Q:他の果物でも出来ますか?
A:条件を満たしていれば出来ます。
生の柿の糖度が、柿酢作りには最も適していると言われています。また、ここでご紹介している方法では、皮に付いている天然の酵母菌と酢酸菌を利用して発酵させています。
これらの条件を満たしている果物であれば、酢の醸造は可能だと思われます。
こちらをご参考になさって下さい。
Q:汁の表面の白い幕は何ですか?
A:菌の集まり(コロニー)です。
カビや生ゴミの臭いがしていなければ、それは有用な菌の集まりです。取り除く必要はありませんし、柿と一緒に濾しても構いません。
Q:柿の上の白い塊りは何ですか?
A:それは菌の塊り(コロニー)です。
カビや生ゴミの臭いがしていなければ、それは無害な菌の塊りです。取り除く必要はありませんし、柿と一緒に濾しても構いません。
Q:表面にコンニャク状の塊りが出来てしまいました。どうしたらいいでしょう?
A:それは無害な菌の塊り(コロニー)なので、取り除く必要はありません。
それは無害な菌の塊りです。わざわざ取り除く必要はありませんし、柿と一緒に濾しても構いません。
だいどころ 客間