天日乾燥中の椎茸
干し椎茸(しいたけ)の作り方
2005.04.01
更新 2022.01.12
干し椎茸とは
生の椎茸を乾燥させたもの。
「ホシシイタケ」という品種があるわけではなく、どんな品種の椎茸でも乾燥させればみな干し椎茸になる。ただし、干し椎茸に向いた椎茸の品種はある。少し詳しくはこちら。
椎茸の栽培方法には原木栽培と菌床栽培があるが、ただ単に保存を目的とするのなら、どちらを用いてもかまわない。ただし調味料として使うなら、後述する旨みの成分の点から、原木栽培のものを用いた方が良い。なぜなら、原木栽培のものは菌床栽培のものに比べて、香りも味も濃厚だからだ。
生の椎茸は、たとえ冷蔵庫に入れておいてもどんどん品質が劣化し、最後には腐ってしまう。そのため、大量に収穫したり購入したときには、新鮮なうちにさっさと乾燥させて保存し、必要なときに水で戻して使うのが最も賢い使い方だ。
生の冷凍保存との違い
生のものを冷凍保存することもできるが、それに比べて乾燥保存だといろいろな利点がある。
まず、生のものを冷凍させて解凍させるとコリコリした歯ごたえが失われてしまう。それに対して乾燥したものを水で戻すと、生と同じような歯ごたえが再現されるし、完全に乾燥させたものを冷凍しても、歯ごたえはほとんど失われない。
また乾燥することにより、レンチニン酸という物質が酵素の働きでレンチオニンという良い香りの成分に変化するそうだ。しかも旨味成分が生のものに比べて増加するので、その戻し汁を調味料として利用することも出来る。
また、生のものを冷凍させるとかなり場所を取るが、乾燥だと半分以下に収縮するので、それだけ場所を取らない。
| 味 | 香り | 歯ごたえ | 栄養 | 量 |
乾燥させる | 旨味成分の増加 | レチニオンの生成 | 水で戻せば生と変わらず | 天日乾燥でビタミンD生成 | 収縮する |
生を冷凍する | 生と変わらず | 生と変わらず | 細胞が破壊されて悪くなる | 生と変わらず | 生と変わらず |
椎茸の安全性
私は、干し椎茸を生産している農家でアルバイトをした経験がある。そこのご夫婦が何気なく交わしていた会話。
「そこらで売ってる中国産の椎茸は、歯ごたえがねぇし味もまずいっちゅう話しだよね。」
「おぉ、それにいつまでたっても腐らんちゅうじゃねぇか。」
「農薬か何か掛けてるんじゃねぇ?」(ちょうど中国産冷凍餃子事件があった頃だった)
ちなみにこの農家では、栽培中も出荷に際しても、農薬や防腐剤の類は一切使用していない。そのような、なるべく安全性の高いものを使いたいものだ。
我が家では椎茸を栽培しているので、干し椎茸も安心安全の自家製だ。
乾燥の方法
完全に成熟していたり木から切り離したりした椎茸は、時間の経過と共に品質がどんどん劣化し、ただ放置しておくだけだと乾燥する前に腐ってしまう。そのため、乾燥させる場所が屋内であっても屋外であっても、いずれにせよ何らかの熱源が必要になる。
- 人工乾燥
炭火や重油や灯油、ガスや電気などの熱源を用いて、短時間で乾燥させてしまう方法。安定して高い品質が得られるため、市販の干し椎茸のほとんどがこの方法でしているようだ。
一般家庭の屋内でするなら、食器乾燥機や布団乾燥機を利用できると思う。ちなみにプロ用のマイコン制御の専用乾燥機では、徐々に温度を上げていき、その上限は摂氏63度に設定されているそうだ。それ以上温度を上げると変質してしまうし、下手をすると炭になってしまうからだろう。
このようにして人工的に乾燥させた椎茸でも、その後日光に当てればビタミンDが増加するそうだ。
また、椎茸専用の乾燥機は、乾燥のために摂氏63度を数時間維持するので、椎茸の中に潜んでいる虫やその卵は全て死滅する。開封していない市販の干し椎茸から虫が発生しないのは、このためだ。
- 天日による自然乾燥
椎茸を日光に当てるとビタミンBは破壊されてしまうが、カルシウムの吸収に必要なビタミンDが紫外線によって約10倍に増えるそうだ。また、費用が掛からないという点からしても、我が家の椎茸は天日による自然乾燥にしている。
天候が悪くて乾燥に長い時間を掛けると品質が低下してしまうが、手早くすればそれなりに高い品質のものを得ることが出来る。
天日による干し(乾燥)椎茸の作り方
それでは、我が家の干し椎茸の作り方をご紹介しよう。
- 椎茸を入手する
- 種類
専門用語では、傘が完全に開く前の丸っこいものを冬菇(どんこ)、傘が完全に開いた扁平のものを香信(こうしん)、それらの中間を香茹(こうこ)と言う。
冬菇は、その歯ごたえの良さから珍重されているようだ。その一方成長し切った状態の香信は、冬菇より量が増えるし乾燥させ易いという利点がある。我が家では、もっぱら香信になるまで待ってから収穫して乾燥させている。
栽培の方法としては、おが屑による菌床(きんしょう)栽培と原木栽培がある。また、それを屋内で行ってるものと屋外で行っているものがある。
もしキノコの軸が刃物で切られていたら、それはほぼ間違いなく菌床栽培だ。その場合、屋内で栽培されている可能性が高い。一方原木栽培の場合は、屋内か屋外かを見て判断することは難しい。しかし日本の気候だと、7月から9月までの間は自然の状態で椎茸が発生することはまずないので、その期間に店頭に並んでいる国産の椎茸のほとんどが、屋内で栽培された物と見て良いだろう。
一般に、原木栽培のものは菌床栽培のものに比べて味も香りも濃厚だ。
- 時期
屋外栽培のものは、必ず早春(2月~4月初旬)に収獲したものを用いること。なぜかと言うと、椎茸を食べる虫は、主に秋と春の終わり頃のキノコに産卵するからだ。それを干し椎茸にすると、乾燥と保存の最中に、白い小さなウジ虫がキノコの内部をボロボロに食い荒らしてしまうことになる。
屋内栽培のものなら屋外栽培に比べて虫の被害は少ないはずだ。現在市販されている椎茸のほとんどが屋内栽培のようだが、せっかく買ったり貰ったりした椎茸を台無しにしては勿体無いので、干す前にそれを確認しておいた方が良いだろう。
- 汚れは?
少々の汚れは乾燥中に落ちてしまうので、泥まみれになっているような場合を除いて洗う必要はない。
- 乾燥させる
- 乾燥に適した気候
通常は比較的晴天が多く、気温は摂氏0度以上の気候であること。
氷点下だと椎茸の中の水分が凍っているので、少しぐらい日光が当たっても、それがなかなか昇華したり蒸発したりしない。そのような場合は、透明なガラスかビニール張りの小さな温室を作り、その中で日光に当てて干せば良い。
それとは逆に高温には強く、気温が摂氏35度を超えても心配ない。ちなみに、プロが使用しているマイコン制御の火力乾燥機では、摂氏63度が上限になっているそうなので、それを超えなければ大丈夫だろう。
- 大きい物は切っておく
乾燥に時間を掛け過ぎると、笠の裏が黒っぽくなったりして品質が落ちるので、なるべく早く行うことがこつだ。形が大きく厚いものは適当な大きさに切り分けると早く乾燥する。但し、手間が掛かるので我が家ではスライスにまではしない。
- 並べて干す
笊(ザル)の上に椎茸を重ならないようにして並べ、日当たりと風通しの良い所に置く。ザルが風で飛ぶようなら重石を乗せる。夜は夜露の当たらない屋内などの場所に移し、何日かこれを繰り返す。1日目は表、2日目は裏というようにすれば、それだけ早く乾燥する。
なお、笊ではなく干物ネットを使う場合は、日光が若干遮断されるので、キノコを幅3~5ミリほどにスライスして並べると、上手に乾燥させることが出来る。
- 硬さを調べる
青天続きで空気が乾燥している場合だと、4~5日もあれば、ほぼ完全に乾燥する。摘んでもへこまず、木のようにカチンカチンになるまで乾かす。もし中途半端に水分が残ったままで保存すると、後述するように虫が発生することがあるからだ。
完全に乾燥した椎茸。
笠の裏側の色は、左下のようなら理想的。右下のものは乾燥に時間が掛かり過ぎて茶色くなってしまったが、見た目ほど味には影響がない。
- カビ?
収穫して間もない椎茸を左の画像のようにして置いておくと、右の画像のような細かい白い粉が下に落ちていることがある。これはカビではなく椎茸の胞子、植物で言えば種にあたるものだ。無害なので他の椎茸の上に落ちていても心配することはない。
保存
保存する容器は密閉できるものにする。冷蔵庫の中は乾燥しているので、もし密閉できなければそこに入れておいても良いだろう。保存中に椎茸が湿気を吸うと、内部に侵入している虫が活動を開始して次の項目に示すようなことになるからだ。
材質は合成樹脂系のものよりも、臭いの少ない缶やガラス瓶などの方が適している。海苔などに入っている乾燥剤の不要になったものをそこに入れておくと、椎茸内部に虫が進入していなければ、少なくとも3年はもつ。我が家ではそれまでに消費してしまうので、その後のことはわからないが。
虫の発生
生椎茸を食べる虫については、こちらをご覧ください。
生椎茸内部の虫を出す方法については、こちらをご覧ください。
虫が発生した干し椎茸
完全に乾燥していない椎茸を常温で保存していると、虫が発生することがある。それには主に次の2種類がある。
- 生の椎茸に産卵する虫
キノコムシの一種
椎茸がまだ木に付いているときに産卵し、その幼虫が椎茸の乾燥や保存中に孵化すると、椎茸内部をボロボロに食い荒らすことになる。
- 干し椎茸にしてから進入する虫
コクガの一種
これの幼虫のうじ虫は、干し椎茸だけではなく米や他の乾物全般にわたって食い荒らす厄介な虫だ。
干し椎茸を保存している容器の中でこのような虫が発生すると、それらが交尾してまた産卵し、最後には椎茸がボロボロになるという最悪の事態になる。
これを防ぐには何と言っても、椎茸を完全に乾燥させたまま密閉して保存することだ。湿度の管理に自信がなければ、すぐに冷凍してしまうと良い。完全に乾燥している椎茸なら、冷凍保存による歯ごたえの喪失はほとんど無いからだ。
使い方
冷水に浸け、水を滲み込ませて戻す。
その戻し汁には、旨味成分であるグアニル酸とグルタミン酸が豊富に含まれているので、我が家では台所の必需調味料となっている。もちろん戻した椎茸も、煮物などの具に使うことが出来る。
干し椎茸を入れておいた容器の底に椎茸の粉が溜まることがある。虫によって生じたものでなければ、これも水で戻してその水と共に使うことが出来る。蕎麦やうどんの汁に入れると粉が目立ってしまうが、それが比較的目立たないシチューやカレーなどの隠し味にすると良い。
- 水
我が家では、砂糖などの添加物を一切加えない冷たい水道水だ。その方が良い出しになるので。
普通の大きさの干し椎茸なら、2個に付き水3カップ未満にしておくと濃厚なだしが出る。
- 時間
大きさや傘の開き具合にもよるが、最低5時間くらいは必要。完全に戻っていないと、硬いまま調理してしまうことになる。
4~5日は冷蔵庫内で保存しておける。
- 調理
汁も椎茸も、必ず加熱調理すること。
- 我が家での使用例
煮物、うどん、蕎麦、冷麦、味噌汁、素麺の汁の出しはもちろんのこと、キムチなどの漬物を作る際の出し汁に加えると旨味がぐっと増える。また、グラタンなどのホワイトソースに加えると、その味に深みが出て一層美味しくなる。
もちろん戻した椎茸も、煮物などの具に使うことが出来る。軸の先端部分、すなわち木に着いていた部分は硬くて食べられないが、笠から1~1.5センチくらいまでなら、傘と同じようにして料理に使うことが出来る。
干し椎茸と昆布のだし
椎茸を昆布と共に戻した汁は、和風や中華の麺類にすぐ使えるため、我が家では上の画像のようにして小さな容器入れておき、冷蔵庫の中に常備している。
だいどころ 客間