ロゴ
総アクセス数:

現在の閲覧者数:

ペットの部屋

ミューミュ

2012.03.13
更新 2012.04.05
退院直後のミューミュ
退院直後のミューミュ、生後2ヶ月半。

 2011年7月20日、我が家の蔵の中で他の猫と共に産まれる。母親は、それまで我が家唯一のメスだったクミャクミャだ。

生後2ヶ月
生後2ヶ月、兄弟たちと。一番手前がミューミュ。

おっぱいタイム
生後2ヶ月、おっぱいタイム、中央がミューミュ。

 生後2ヶ月頃、それまでいた蔵から母屋(おもや)の玄関横にある木箱に、母親によって移される。それから母親や兄たちと同じように、母屋の前でドライのキャットフードを与えるようになると、私の足元に寄って来るようになった。

 10月4日午前2時30分頃、寝床の中でうとうとしていたら、玄関横の木箱を爪で引っ掻く大きな音と、仔猫の断末魔に近い悲鳴が納屋の方に向かって遠ざかって行くのを耳にして飛び起きた。そのかすれ声からしてメスの三毛の仔猫だ。急いで外に出たが、箱の中に猫の姿はなく、納屋の方に向かって呼んでも返事がない。
 どうやら、何らかの野生動物に襲われたようだ。母猫が付いていればこんなことにはならなかったのだろうが、我が家と隣の家とを行ったり来たりする猫文化のせいで彼女は不在だったのだ。
 夜が明けて我が家の猫の朝食のとき、三毛の仔猫の姿がなかった。昨夜の感じからして、きっとテンにでもやられたのかもしれない。
 10時前、我が家の母屋に陽が当たる頃、いつものように猫たちが乗っている箱の上を窓越しに見ると、気になっていた仔猫の姿があったのでホッと安心する。しかしそれもつかの間、よく見るとその顔の右半分がなんだか変だ。『顔面を喰いちぎられたか』と思って怖々外へ出てみると、なんとその右の目玉が飛び出しているではないか! きっと顔を力まかせに叩かれたものの、なんとか逃げて、この時間までどこかに隠れていたのだろう。
 彼女は、見えている方の目で私の顔を見ながら悲しげなまばたきをした。私は何とかならないものかと思って近付き、飛び出して顔に付いている目玉を覗き込んだ。その中央にある収縮しきった瞳の奥に焦点が合った途端、生き物の目と目が合ったときに生じる独特の感覚がした。この目は見えているのだ! それによって『まだ助かる』と直感した私は、町の動物病院に電話をして、これこれこういう状態なのだが治療することは可能かと問い合わせた。すると、「見てみないとわからないが、半野良の猫なら洗濯ネットに入れて連れてきてください」とのこと。
 ところが、納屋の中の車のエンジンキーを回したところ、セルが少しキュルキュルといったきりでエンジンが掛からない。何日も乗っていなかったので、きっとバッテリーが上がっているのだろう。我が家の納屋の前の道は下り坂になっているので、押し掛けでエンジンを掛けることにして、とにかく納屋から車を手で押して出す。飛び出している目玉のことを考えると、一刻も早く適切な治療を施してやりたいのだが。
 猫の入ったゲージと荷物を積んでから、『もしや?』と思って再びキーを回したら、何とセルが重たげに回ってからエンジンが掛かったではないか! こういうとき、人は都合よく「神様」を出してくるものだが、このときの私もその例に漏れず、心の中で思った。
『この子は神様に守られてる!』
 そして私は、町の動物病院まで慎重に車を走らせた。
 診察台の上でゲージから猫を出すと、いつもお世話になっている先生は、「こりゃーだめだぁー!」とおっしゃった。その感じからして、「助からない」のではなく、「こんな状態の治療をしたことがない」というように感じられたので、私は諦めずに言った。
「元に戻らないですか?」
 先生は、決心したようにおっしゃった。
「なんとか入れてみます。入院になるので、明日迎えに来てください。」
 私は一安心した。猫の『助けて!』という思いがまず私に伝わり、それが今度は先生に伝わったのだ。これは言葉では言い表せない独特の感覚だった。

 10月5日12時前、三毛を迎えに行く。目玉はちゃんと収まったとのこと。先生は、「右の顎の骨も折れていたので交通事故です。」とおっしゃったが、どうも腑に落ちない。それはともかく一命を取りとめたようなので良かった。ゲージの格子越しに見ると、飛び出した方の目に服のボタンが縫い付けられている。眼帯の代わりなのだそうだ。
 先生は、「当分ケージから出してはいけない」とおっしゃっていたが、帰って庭にゲージを置き、格子越しに母親のクミャクミャに会わせたら泣き叫んで止まらなくなった。それが死に物狂いの泣き方なので、仕方なく出してやる。クミャクミャはしばらく迷ってからすぐいつものように舐めてやったが、他の猫は片目に縫い付けられているボタンが気になるのか、しばらく近付くのを敬遠していた。
 他の猫と一緒に餌をやったら、もともと遠慮がちの性格なので、病院で頂いた缶詰の猫餌を他の猫に食われてしまう。また、顎の骨が折れていているせいかドライの餌がうまく食べれないので、水でふやかしてやったらけっこう食べた。
 片目にボタンが縫い付けてあるのを隣の人が見たら驚くと思ったので、「これは悪戯じゃなくて治療だから取らないでくれ」と言いに行く。すると、応対に出たそこのお婆さん(この人が猫文化の総元締めだ)が、「ハウスの中で仔猫が食われて死んでいる」と言う。『もしや?』と思って一緒に見に行くと、果たして茶トラが無残にも内臓を全部食われて地面に横たわっていた。その首は180度反転しているので、きっと噛み付かれてから、ものすごい力で振り回されたのだろう。昨日のことも含めて、その力の強さからタヌキの仕業と推測する。
 遺体を家に持って帰り、使っていない畑に埋葬する。昨日の午後はうちの庭で白黒と一緒に遊んでいたのに。信じられないようなことだが、これは現実だった。しかも相手が仔猫の味を覚えたので、また襲われることは確実だ。しかし我が家周辺も隣の家周辺も、もう安全ではない。そこで、生き残った三毛(その後ミューミュと名付ける)と白黒(その後ボクと名付ける)を外猫から家猫に切り替えようと決意する。
 猫たちは、今夜は隣の家の周辺で過ごすようだ。また襲われないことを願って寝る。

 翌10月6日の朝の餌のとき、母親のクミャクミャしか来ていない。不安が脳裏をよぎる。昼前頃には、1頭ないし2頭の死骸を引き取りに行く覚悟を決めていたが、正午前になってから、クミャクミャの後ろに2頭が無事な姿で付き従って現われたのでホッとする。まず母親を家の中へ入れすると、2匹の仔猫は難なくそれに付いて入って来た。
 昼の餌のとき、ミューミュに病院でもらった化膿止めの錠剤を飲ませる。白いのはなんとか飲んだが、こげ茶色のは大暴れして抵抗し、吐き出してどこかへ飛んでいってしまった。そのとき左手を引っ掛かれたために、何箇所からか出血する。これによって、それまで手でつかめたのが、私が手を伸ばしたらすぐ逃げるようになってしまった。犬猫病院に電話したら、「夕方連れて来てください」と言われたが、それだけのためにわざわざ町まで行けないので、「夕方は出れません」と言ったら、「薬を砕いて粉にして、缶詰のキャットフードか魚に混ぜてやってください」と言われた。そういう高級な物はないので、「ドライをふやかしたらだめですか?」と言ったら、「それだとよく混ざらないので」と言われたので、「ありがとうございました」と言って電話を切る。
 午後、2匹で遊んだりしてリラックスしている様子。納屋にしまってあった猫のトイレを土間に置いたら、2匹ともちゃんとそこでしていたので感心する。
 夜、鯖のアラのだしガラに混ぜて薬をやったがミューミュは食べない。他の猫が食べてしまうので困る。
 最初2匹は私から離れたとこで眠っていたが、クミャクミャが私の布団の上に連れて来たので全員一緒に眠る。

 10月9日、ミューミュに薬を飲ませないと目が化膿してしまって、治るものも直らなくなるので病院に連れて行くことにする。午前中いつものように豆炭の袋に入って眠っていて目を覚ましたところを、環境アセス用の大きな捕虫網で捕まえる。
 長いこと効くという抗生物質の注射をしてもらう。「5日ぐらいしたら薬を飲ませて」とのこと。先生は、「泣いてもいいからゲージに閉じ込めておいた方が人に慣れる」とおっしゃっていたが、どうも納得がいかない。しかし、口答えをして先生から嫌われ、治療に悪影響が出たら困るので黙っておく。
 今夜は、クミャクミャと一緒に私の布団の中にまで入って来た。これが私の慣らし方だ。

 10月10日、私が昼食のとき、胡坐(あぐら)をかいている私の右膝にミューミュの兄猫のうちの1匹が乗っていたのだが、彼女はもう一方の膝に自分から乗って来た。

生後3ヶ月足らず
生後3ヶ月足らず、兄貴たちとお昼寝。

 10月12日、仔猫の玩具にとオニグルミの種をやったら、2匹は興奮して猛烈に遊んだので、その拍子にミューミュの目のボタンが取れてしまった。目玉は飛び出さなかったが、開いたままで真っ赤になっている。それが眼球なのか瞼なのか瞬幕なのかはわからない。これだと明日は、病院に連れて行かなければならない。

 10月13日、ミューミュが乳を飲んでいるところをそっと抱き上げて捕虫網に入れ、病院へ連れて行く。目に被さっている赤いのは瞬幕で、取れても構わないとのことだが、ボタンはまだ取れないでほしかったとのこと。目薬をさしてもらい、前回と同じ注射を打ってもらう。

 10月18日、ここ数日ミューミュの右目の状況は一進一退だったが、今日は赤い瞬幕の上から、白いものが少し出てきた。眼球が化膿しているのかもしれない。とにかく手でつかめないので、薬を飲ますことができないのは困ったことだ。

生後3ヶ月
生後3ヶ月。眼帯が予定より早く取れてしまった。

 10月19日午後、やっとミューミュの右目の瞼が閉じられるようになった! 素人目かもしれないが、これは大進展だ。

 10月20日。やっぱり素人目だった。朝見たら、ミューミュの右目から膿みのようなものが出ていたので、慌てて病院に連れて行く。「これを缶詰のキャットフードに混ぜるとよい」と言って粉末の薬を渡される。仕方ないので病院の帰りに、初めて缶詰のキャットフードなるものを買って帰り、薬を混ぜてミューミュに与えたらよく食べた。やはり缶詰の猫餌は値段に比例してご馳走なのだ。

 10月25日。5日ぶりにミューミュを病院に連れて行ったら、「良くなっている」と言われた。

 10月31日、ミューミュを病院に連れて行ったら、「良くなっている」とまた言われ、今まで1日に2回与えていた薬を1回でいいと言われた。そして、この日もらった薬がなくなった日で治療は終わりになった。

進展せず
生後7ヶ月。治療が終わってから、ずっとこの状態だ。

 翌年2月下旬、治療が終わってから3ヶ月が過ぎたが、目玉は収まっても瞳は元のようにならず白く濁ったままだ。しかし、跳んだり走ったりしている様子を見ていると、他の猫と全く遜色がない。また、戸の隙間から顔を半分のぞかせた彼女は、見えていないはずの目だけで私の目を「見」るようなこともあるので、もしかするとわずかでも見えているのかもしれない。それか、我々人間にはない能力によって「見て」いることも考えられる。
 このような痛々しい目と目が合うと、もうかなり慣れたとは言え、私はやはりドキッとする。しかし、猫たちはそのような人間の感覚とは少し違うようだ。片目にボタンを縫い付けられた姿にビビッていた兄弟もすぐに慣れたし、それが取れて赤い目がむき出しになってからも全然気にしていなかった。また母親も、一度だけ「こんなになっちゃって可哀想にね」と言うようにして、その赤い目を舐めてやっていたことがあったが、その後特別扱いすることは全くなかった。

瞳が見えてきた
生後8ヶ月足らず、濁った眼球の奥に瞳らしきものが見える。

 3月に入ってから微かな変化が起きた。眼球の濁りが薄まり、その奥に黒い瞳孔らしきものが見えるようになったのだ。
 とにかく少しでも元のようになれば、それに越したことはないので、今後のドウコウを注意深く見守りたい(笑)


客間


(C) 2004-2015 Tano Kakashi All Rights Reserved.
inserted by FC2 system