ヒマラヤ産のアンモナイトの化石そのものか、またはそれを内包している石のことをネパールでサリグラム (Shaligram)と言う。
アンモナイトとは、今から約4億年前から7千万年前にかけて海に生息していたイカやタコの仲間だ。化石となるのはその殻の部分で、渦巻き型をしている。
ヒマラヤ山脈は元々海底にあったそうで、それが7千万年ほどかけて隆起し、現在の標高7000~8000メートルになったのだそうだ。その証拠に、このような海の生物の化石が、ガンジス川の支流の河原の石に混じっている。
ヒンドゥー教では信仰の対象となっているが、特定の石をそのようにすることは、日本も含めた世界各地で普遍的に行われていることだ。その多くは単なる迷信ではなく、実際に人間に対して不思議な作用を及ぼす力があって、古来から感覚の鋭い人たちがそれを感じ取り、尊い物として崇めてきたのだと思っている。
感覚的に推測すると、この黒い石は多分2億年以上前のものだと思う。比較的新しいアンモナイトは、色が白っぽいものが多いからだ。
まるで鉄の塊のようにずっしりと重く、見ているだけで悠久の時を感じさせてくれる。
博物館や土産物屋では、これを砕いて中の化石を必ず露出させている。そうしなければ学術的または商業的価値が無いからだ。
しかし、私がネパールで宗教関係者から聞いた話しによると、割ってしまうとパワーが失われるそうなので、中に化石が入っていることを確信しつつ割らずいる。その方が、調理用の道具として使い易いということもあるので。
宗教的な物をそのようなことに使うということは不謹慎なようだが、我が家の信仰からするとそんなことはない。台所は調理を行う聖なる領域であり、そこで使われる道具が宗教的パワーを持った物であれば、そこで作られる料理と、それを食べる私にもその神聖な力が作用するはずだからだ。
主にカレーの香辛料を挽いたり、漬物石として使っている。
我が家のものには、手に触れると疲労が回復し、筋肉痛を和らげる効果があることがわかっている。
ネパールの首都カトマンドゥ(Kathmandu)から西に約140km、または、観光地ポカラ(Pokhala)からバスで約130km のところに、ガンジス川の支流であるナラヤンナ(Narayana)川に沿ったナーラヤンガート(Narayanghat)という町がある。そこから約6km 川を遡って歩くと、デヴガート(Devghat)というヒンドゥー教の聖地がある。トゥリシュリ(Trishuli)川とカリガンダキ(Kaligandhaki)川が合流する地点だ。
1988年5月にポカラを訪れた際、そこで知り合ったイタリア人サドゥーに導かれて、イギリス人やスウェーデン人などの友人たち総勢5人でそこを訪れた。27日の朝、その人たちと共に河原に降りたときに拾った。
但し近頃のネパールでは、化石の国外への持ち出しが禁止されたそうなので、これを求めて苦難の末ここに辿り着いたとしても、このような石を持ち帰ることは出来ない。