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文字列の部屋

朽ちてゆく

2002.6. 田野呵々士

山奥の一軒家
人が去り孤独に耐えかね
萱の屋根に草を生やす

屋根裏には蝙蝠を
座敷には鼬を招き
鼬の入れぬ箪笥の裏には鼠の家族

草の根伝いに誘い入れた水
梁へと染み渡り
廃屋はゆっくりと朽ちてゆく

屋根は落ち壁が崩れ
柱も折り重なって倒れれば
今度は蛇と虫の集合住宅

朝靄立ちこめる森の中
木々を射抜いた陽の光
横たわる廃屋に到達する

苔に覆われた木材
暗く湿った樹海の底で
金をおびた緑に輝く

その美しさに
イトトンボは引き寄せられ
雉は背伸びして目を見張る

それも徐々に土となり
その養分を吸った木の芽
成長して大木となる

切り倒された大木
新しい家となり
再び人を住まわせた

庭を走り回る子供達
囲炉裏には旨そうな煮物の湯気
宴に興じる人々

それから二百年後の一軒家
人が去り孤独に耐えかね
萱の屋根に草を生やす

夜明けの風は閉ざされた戸を叩き
天井から滴り落ちる雲の雫
止められた時間の封印を解く

鳥きらめく樹海の下
大勢の生き物に頼られ
無数の生命を養い

喜びに満ちて
ゆっくり ゆっくりと
また朽ちてゆく

文字列の部屋  客間

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