古い民家を借りるのはこれで4度目だが、これほど野性動物のアパートと化している空き家を私は今まで見たことが無い。今回は、かなり山奥ということと、20年以上にわたって人が住んでいなかったということもあるだろう。
それでは、私が入居する直前までの、この家の住民をざっとご紹介しよう。
2000年4月半ば、この家を借りるにあたって、管理人のK氏に家の中を見せてもらうことになった。まず最初に勝手口の戸を開けたとき、奥の部屋にいたテンが慌てふためいて床に開いた穴から逃げていくのが見えた。
中に入って各部屋を見て回ると、床のあちこちにその糞が落ちている。特に「北二階」と「西二階」は、凄まじかった。
この1週間ほど後、住みかを追われた腹いせの如く「南10畳」の部屋で新しい糞が発見されたが、それ以来家の中ではテンの気配は無くなった。
囲炉裏部屋の南側の土壁が崩れていて、そこから天井裏へと通じる大きな穴が開いていて、その中に大きなコウモリが住んでいる。居住空間は違うが、それは今でも私と「同居」している。
詳しくは、コウモリを参照。
まだ入居する前の2000(平成12)年8月末、物が所せましと置いてある「南二階」の片付けをしていたら、それらの隙間と天井裏から大量の鼠の糞と木の実の殻、鳥の糞、植物の繊維などが出てきた。隙間が狭かったので、テンもそこには入れなかったためか、この部屋はネズミ天国になっていたようだ。
また、梁に白い糞が付着していたことから、ここの天井裏には鳥が巣を作っていたこともわかった。
その12月、掃除をしていて面白いことがわかった。この家の「神棚の部屋」と「南10畳」の梁の上部には、落下する壁土の粉を受けるための溝があるのだが、そこがなんとネズミの通路になっていたのである。ネズミはこれを伝って各部屋の壁に穴を開け、それらを自由に行き来していたのだ。これを狙って駆け登ろうとしたテンの鋭い爪跡が、柱や襖のあちらこちらに付いているが、いずれも数回で諦めていたようだ。
「南10畳」の床の間の上にある神棚の奥にも、大きなネズミの巣があった。ここもテンからは攻撃されない安全地帯だったのだろう。
「西二階」からは、長さ1m程のヘビの脱け殻が発見された。乾燥しきって縮んでいる抜け殻がこの長さなので、その主はどれほどの長さだったのだろう。
きっと、ネズミ食べ放題だったに違いない。
20年以上も空いていたこの家が殆ど虫に喰われる事無く、クモの巣が張り巡らされることなく存在しているという事実は、動物たちが互いに住み分けしながら、この家を自分たちの縄張りとして守ってきたからだろう。
しぜん 客間