クスノキ科の常緑高木。学名:Laurus nobilis。原産は地中海沿岸。
雌雄異株だそうだが、ちょっと見ただけではその違いがわからない。しかし、春から初夏にかけて花を咲かせたとき、雄のものは黄色く雌のものは白いので、その違いを見分けられるのだそうだ。
ローリエはフランス語から、ローレルとベイリーブスは英語から来ているそうだ。ここで紛らわしいのが「ベイリーフ」だ。これはここで紹介している木とは全く違う木の葉で、主にインド料理に使われる。かなり多くの人がこの単語を月桂樹の葉のことと思い込んでいるようだ。
ローリエが料理に用いられるのは、今は亡き父が自作の和風煮物に入れていたので、かなり以前から知ってはいたが、薬としても葉と実が用いられているそうだ。葉に含まれているシネオールという芳香成分は、蜂に刺されたときやリューマチ、そして神経痛などへの効果があるそうだ。またこれは唾液の分泌を促進するので、食欲の増進や消化を助け、肝臓や腎臓の働きまで活発にしてくれるそうなのだから、何とも有り難い木の葉である。
我が家では、トマトソースやホワイトソースを使った料理に欠かせないし、醤油味の煮物に入れることもあるので台所の必需品となっている。それまでは乾燥した葉を購入していたのだが、たった20枚とか30枚しか入っていないのに数百円の値が付いているのを、買うたびにいつも「高い!」と感じていた。
ところが2007年春、ついにそれが底を着いてしまい、補充することができなくなった。重度の経済苦境に陥った(今でもまだ持続気味)からだ。しかし皮肉なことに、その前の年は畑のイタリアントマトが豊作だったので、それが冷凍庫の中で大量に眠っている。好きな人にならわかると思うが、ローリエの入らないトマトソースなんて、昆布のだしが入っていない、うどんの汁のようなものなのだ(なんか変な例えかな?)。
この危機的状況をなんとかしなければならなくなった私は、この問題について真剣に考えることとなった。
この地域の武道館の正面玄関前に植わっている大きな木が、この月桂樹であることを私は密かに知っている。また、あるとき町を歩いていたら、ある見知らぬ家の生垣が、なんと月桂樹で作られていることを知って私は思わず目を丸くした。その家が宝物に囲まれているように思えたからだ。
『よーし! それなら我が家だって!!!』
生垣にまでしなくてもいい。一本あれば充分だ。
奮起した私は、自分が借りている敷地内の山を歩き、月桂樹またはその代用となる木を探し回った。以前、自生している山椒の実生を山で偶然発見し、それを庭に移植してからというもの、ずっとその恩恵に与っているという幸運な出来事があったからだ。ローリエと似たような葉を見掛けるたびに、私は一つ一つそれを齧ってみたが、いずれも満足出来るような物は無かった。そのような瓢箪からコマのようなことは、たびたびあるものではない。
そこで私は考えた。
『生垣になってるってことは、どっかで苗を売ってるんじゃないのか?』
ある日町へ出た私は、試しにホームセンターの園芸コーナーを訪れてみた。
店員さんに聞いてみたが、その人はこの店でそれを取り扱っているかどうかさえ知らなかった。しかし別の店員さんに聞いてみたら、そのコーナーの一番奥の目立たない場所にそれがあることがわかった。つまりこの地域では、葉牡丹とかシクラメンとかのように、メジャーな植物ではないのだろう。
高さ1メートルほどの苗だと1200円するし、70センチほどの小さいのでも750円する。ナスやピーマンの苗が一つ100円もしないのからすれば、かなり高い。大いに迷った私は、そのマイナーな植物の前にかなり長い時間いたので、店の人からは、さぞ変な奴と思われていたに違いない。
私は試しに、それに付いている葉の数を数えてみた。すると50枚近くもあった。ということは、スーパーで売られている乾燥したものよりも、一枚当たりの単価が安いではないか! しかも、これは生きている。日の光と水と空気と土がこの世にある限り成長し続け、いずれは大木となる可能性をも秘めているのだ!!!
意を決してその小さい方の苗を購入した私は自宅に帰るなり、それをどこに植えるかを検討した。我が家の敷地は借家ではあるがとにかく広いので、それには3日ほど掛かった。衝動的に植物の苗を植えてしまったがために失敗したことが、今まで何度かあったからだ。
その結果、中庭の日当たりの良い場所にそれを植えることとなった。すると、秋には枯れてしまう野菜の苗とは違い、まるで友人が一人出来たような喜びを得ることが出来た。
というわけで、それ以来私は、月桂樹の香りに不自由しない生活を満喫することになったのである。大枚(?)をはたいて苗を買って正解だったわけだ。これは挿し木で増やすことが出来るそうなので、そのうちだれかに分けて上げることも出来るだろう。
「自分の家で月桂樹を栽培する」
庭が無ければベランダや窓際の植木鉢でもいい。ローリエ大好きの方には、是非ともお勧めの一手だ。
月桂樹は地中海沿岸原産だけあって、日当たりと水はけの良い場所を好むようだ。
植えるのはいつでも良いが、4月から5月が最も良いようだ。
植えた直後、肥料に木灰を少しやっただけだが、そこの土は元々肥えていたようで、初夏から夏に掛けての生育が物凄かった。しかし前述したように、葉を料理に使うので、それが出過ぎて困るということはない。葉が成熟してから収穫し、乾燥させれば長期保存が可能だからだ。
周囲に草が生えると、土の中の養分をそれに奪われるし、風通しが悪くなって病気の原因ともなるので、定期的に下草を刈ってやる。
一旦根付いてしまえば野生の樹木と同じで、自然の雨水だけでも充分育つ。我が家では年間30~40枚の葉を収穫しているが、水や肥料を与えなくても元気に育っている。
ただし、真夏に雨が10日以上降らないようなときには水をやった方が良い。
また、葉をたくさん収穫したいならそれなりに窒素系の肥料をやると良い。
葉を料理に使うので、もちろん無農薬だ。
秋から冬には、地上部の成長が一旦止まる。
我が家は新潟県の標高約300メートルという条件だが、そこで雪を被っても大丈夫だ。
雪の重みで枝が曲がっても、雪を取り除けば元気な姿を見せる。
5月になると、また新葉が出始める。
月桂樹の新葉。下の方の色の濃いものは昨年出た葉。
苗を植えてから丸3年目の5月初旬、初めて花が咲いた。黄色なので、この木が雄であることがわかった。
葉と同じ系統の甘い香りがしている。
雄株の月桂樹の花
植えた翌年の初夏に、突然芯の幹から上の葉が枯れ始める。
赤い矢印が病気の兆候。この段階でこの葉だけを本体から切り離してしまえば、病気が他の葉に移ることはない。
あまり気にせず放っておいたら、それが急速に他の葉にも広がっていった。多分病気だと思ったので、そこから下の幹を鋸で切断して枯れた部分を除去したら、残りの部分は枯れずにすんだ。
ところがそれから約2年後の2010年5月8日、今度は切断した部分のすぐ下の枝の葉が枯れ始めたので、5月10日にそこから4センチぐらい下の幹を切断する。その後、葉の枯れは広がらなくなった。
中央が病気になった葉、左上は正常な葉 | 幹を切断して枯れた部分を除去する |
観賞用に売っている苗には、農薬が使用されている可能性が高い。そのため、食用にするのであれば、購入直後の葉を使用せず、新芽が出て、それが硬くなるまで待った方が良い。香りの成分がより多く含まれているのは、新葉よりも古い葉の方だからだ。
葉を手でむしると、一緒に枝の皮をはいでしまうことがあるので、なるべくなら剪定ばさみで切った方が良い。
生のものには若干苦味があるし、これを油で炒めると、水を入れたのと同じように油がはねて大変なことになる。そのため、収穫した葉はよく乾燥させる。
丸まってしまうと保存する際にかさばるし料理でも使いにくい。また、日光に当てて干すと早く乾くが、色が黄色っぽくなってしまう。そのため、重石をして日陰干しにすると良い。
重石をしないと丸まってしまう | 左は日陰干し、右は天日干し |
収穫直後 | そこに笊を乗せる | 17日後、乾燥終了 |
密閉できるガラス瓶やビニール袋などの容器にに入れ、暗冷所にて保存する。
容器が密閉できなければ、冷蔵庫や冷凍庫の中は乾燥しているので、そこに入れておくと良い。
葉脈からより多くの香りが出るので、料理に入れる前に葉を横に切ると良い。
2022年11月です。