木の伐採
2010.02.22
更新 2024.04.17
前置き
山で生活しているのなら、是非とも習得しておきたいのがこの作業だ。
高さが人の背丈ほどで、幹の円周が数センチ以内の木なら、どう切り倒そうと事故になるようなことはないと思う。しかし、それなりに大きく成長した木は、倒し方を間違えると大事故になる。そのようなことを防ぐためには、それなりの道具と、それらを使用するための知識と技術、様々な危険を予測することの出来る感性、そして作業に適した服装が必要になってくる。
私がまだ10代の頃、近畿地方の郊外に住んでいたことがあった。
当時その周辺の山林ではマツクイムシが猛威を振るっており、それによる松の被害が相次いでいだ。そのため、その立ち枯れの松の伐採を、地元のセミプロに付き従って行っていたことがある。1979年から1980年にかけて、100本ほど倒しただろうか。
現在の我が家では、風呂や台所そしてストーブの燃料をすべて木に依存しているし、自家製椎茸やナメコのホダ木を確保するために、木を伐採しなければならないときがある。また、大雪や台風で倒れたり折れたりした木も、根元から伐倒して片付けなければならないこともあるが、それらを毎日のように行っているわけではない。
そのため、それを専業としている人からすれば、現在の私は素人に少し毛が生えたようなものだろう。もしこれをご覧のあなたが木の伐採の技術を本気で習得しようとしておられるなら、プロもしくはベテランから実地指導を受けることをお勧めする。
また、伐採に関する情報を文字と画像で得ようとされる方は、その道の専門機関が提供している書籍や専門的なWebサイトをお勧めする。ここに掲載しているものは、あくまでも概要だということをまずお断りしておく。
必要な道具など
ここでは、これらの使い方を既に習得していることを前提として説明している。
- チェーンソー
昔は鋸で挽いて伐採していたのだから、それを考えるとこの道具は、洗濯板に対する電気洗濯機に例えることが出来るかも。
電動式とエンジン式がある。
前者の方が取り扱いも保守も楽だが、充電式でなければ常に100V電源を確保しておかなければならないので、庭先で小さな木を倒したり薪を切ったりするのに適している。
その一方、山の中に深く入って仕事をするなら、機動性の点でエンジン式の方が優れているし、馬力も断然エンジン式の方が強いので、太い木を倒すならエンジン式の方が適している。
我が家の電動式チェーンソー。1993年に購入し、2015年まで使えていた。
庭木を倒す必要が生じたので、2024年春に購入した我が家の新しい電動式チェーンソー。
チェーンを巻いてあるガイドバーの長さは前のものより5センチ短い30センチだが軽くて使いやすい。家庭用ならこれで充分だ。
- 鉈(なた)
細かい枝をはらったりするのに、あると便利。
大きさや形状はいろいろあるので、自分が一番使い易いものを選ぶ。
- 折りたたみ式鋸(のこぎり)
チェーンソーが突然故障したり、木に挟まって動かなくなったりしたときに、あると重宝する。
- 梯子(はしご)または脚立(きゃたつ)
木に登る際、あると便利。
山の中を一人で持って歩く場合は、長さ2メートル以内のものが望ましい。
強度と扱い易さから、アルミ製のものが最も適している。
- ロープ
倒したい方向に木を引っ張るために、備えあれば憂い無し。特に初心者にとっては必需品。
安価で強度もあり、しかも比較的劣化が少ないので、我が家では太さ10ミリのクレモナロープを使っている。
- ウインチ
ロープを引くのは、もちろん人力でも構わないが、これがあると便利。
1~2トン牽引用の携帯式のものから、据付型の業務用のものまでいろいろある。高さ15メートル未満の木なら前者で充分だ。
我が家のウインチ。本体の長さ約40センチという小さな体で、2トンまでの物を引っ張ることが出来る。
- 滑車
ロープを引く際これを使うと、より安全に伐倒が行える。(後述)
この画像のように蓋が開けられるものだと、中にロープを通し易い。
- ヘルメット
安全のために着用が必要である。
- 作業に適した服装と靴
林業関係の専門的なものもあるのだろうが、土木工事現場の作業服や靴で代用することも出来ると思う。
伐採の方法
- 木の選定
何のために伐採するかによって選定する基準が変わってくる。下の画像は、椎茸のホダ木用。
間伐のためなら仕方ないが、なるべく危険や困難なことを避けるため、次のようなことを留意しておく。
- 急斜面だと危険が増す。
- 周囲に他の木が密生していると、それに引っ掛かって倒しにくくなる。
- 天候の穏やかな日を選ぶ
- 強風の日は、風であらぬ方向に倒れたりして危険なので避ける。
- 雨の日は、滑ったりして足元が不安定になるので避ける。
- 雪の日も、手元が滑ったり視界が悪くなるので避ける。
- 落雷の危険がある時も避ける。
- 必要に応じて上部を切っておく
住宅密集地などで倒せる面積が限られている場合には、前もって木に登り、幹や枝などを切っておく必要がある。それにはかなりの危険が伴うので、ここでは取り上げない。
- 倒す方向を決める
傾斜地の場合、斜面の上側に倒すと木が転がって危険だ。逆に下側だと倒れる速度が速くなり、その衝撃で木が破損したり谷底に落ちたりする可能性がある。横方向だと、木が横に転がることもあるので、最も良いのは斜め下方向ということになる。
- 倒す方向のチェック
方向が決まったら、そちらに倒れた場合に障害となる物がないか、破損する物はないかをチェックする。
もう少し具体的に言うと、横に生えている木の枝に引っ掛かると倒れなかったり、あらぬ方向へ倒れてしまったりするので、そのような障害物は先に切っておく。
また、家屋の屋根とか犬などのペットにも注意する。
道具などの置き忘れによって、それが木の下敷きになってしまい、後で「どこいった? どこいった?」と探し回るようなこともある。
- ロープを掛ける
木の幹にロープを掛ける。
熟練者だと一々ロープを使わなくても、木の重心や風向きから判断して、幹にチェーンソーの歯を当てる位置がわかるので、大体思った方向に倒せる。
しかし初心者の場合、より安全で確実に作業が遂行出来るので、これをしておくことをお勧めする。
掛ける位置が木の上の方であればあるほど、梃子(てこ)の原理によって、引っ張る力が少なくて済む。但し、あまり細い部分に掛けると、強い力で引っ張った際に折れることがあるので、ほどほどの位置に。
倒したい木の高さがウインチの場所より短ければ、この上の画像のようなやり方でも構わない。しかしそうでない場合は、ウインチを操っている人が退避を誤ると木の下敷きになるので、より安全な方法を次にご紹介する。
- 滑車の使用
作業場を真上から見た図
- ロープ①の一方の端を木①の幹のなるべく上の方、なおかつ引っ張る力に耐えられる太さの部分に掛けて縛る。
- そのもう一方の端を持って木②のところへ行き、それを滑車に通す。
- 木②の幹のなるべく根元に近いところに短いロープ②を掛けて縛り、それに滑車のフックを掛ける。
- 今度は木③のところへ行って短いロープ③を掛けて縛り、それにウインチのフックを掛ける。
- ウインチのワイヤーを伸ばして、その先端にロープ①の端を結ぶ。
ここで既にお気付きの方もおられると思うが、引っ張る方向と倒す方向が少しずれている。その理由は、もし木①がまっすぐ木②に倒れ込めば、その枝に引っ掛かって地面に倒れなくなるからだ。
ウインチの向きを逆にして、ワイヤーを直接木③に巻き付ければ、ロープ③が必要なくなるが、それをすると木③の樹皮に傷が付くことがある。
- 倒したい方向に水平の切れ込みを入れる
木の幹のなるべく下の方の倒したい方向に、水平の切れ込みを入れる。深さは、切る部分の直径の1/4から1/3。
- その上から斜め下に切れ込みを入れる
角度は30度から45度。これを受け口と言う。
あまり上手に切れていないが、このような楔形(くさびがた)に切り取る。
- ロープを少し張る
ロープ①がピンと張る程度の張力をかける。ウインチが無ければ人力でも構わない。
これをしておくことによって、木が何かのはずみで別方向に倒れることを未然に防ぐ。
- 受け口の反対側に切れ込みを入れる
受け口の高さの2/3程度のところを水平に切る。これを追い口と言う。
切り始めたところ。幹の直径1/10を残すところで切るのを止める。
幹の直径の1/10ほど残すところで止める。この残った部分のことをつると言う。
- 退避する
木を切っていた人は、チェーンソーを持って安全な場所に退避する。木の周辺にいる人も、道具類を持って安全な場所に退避する。
- ロープを引く
ウインチまたは人力により、ロープ①を少しずつ引っ張る。急に力を加えたり、しゃくったりすると、その反動で反対側に倒れようとするので大変危険だ。
- 倒れる合図を送る
木が倒れてきたら、ロープ①を引いている人は、周囲の人に向かって大きな声で、「倒れるぞー!!!」という合図を送る。プロはホイッスルまたは呼子(よびこ)を使っているようだ。
ロープ①を引いている人も、必要があれば安全な場所に退避する。
倒れた木、右はその切り株。
- 枝を除去する
木が完全に倒れたら、不要な枝を切っていく。それによって木が転がったり、足の上に倒れ込んだりすることがあるので、油断してはいけない。
- 幹を分断する
用途に応じて幹を必要な長さに切っていく。もちろん、枝の除去と交互に行っても構わない。
その際、他の木を利用して、このように地面から浮かせる。そうしないと下の図のように、木の重みによって切り口が狭まり、チェーンソーの歯が挟まってしまうことになる。
- 後片付け
枝などは、必要に応じて処分する。
道具類も片付けて終わり。
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