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だいどころ

チャトニー(チャツネ)

2021.08.13
更新 2023.11.22
混ぜる前
自家製「かんたんトマトチャトニー」(混ぜる前)

チャトニーとは

 香辛料を使った南アジアの調味料。薬味やタレのようなもの。ソースとみなされることもあり、南インドの定食や軽食に付いてくるココナッツベースのものはまさにそうだろう。このようなものからペースト状のもの、煮詰めるものからそうでないもの、加熱しないものまでいろいろある。香りも味も各家庭や店によって素材が異なるために、さまざまだ。
 日本ではなぜか隠し味に使われることの方が多いようだが、私の感覚だと出来上がったカレーや軽食に隠さず堂々と付けて食べる存在だ。現地の人は隠し味として使うこともあるのだろうが、それはけして主流の使い方ではないと思う。
 そもそもチャトニーの語源は、インドの言葉の一つであるヒンディー語で「舐める」を意味するチャトナー(चाटना)なのだそうだ(ネットの翻訳ツールで試してみると「舐める=चाटना(チャトナー)」でその通り)。これを私なりに解釈すると、もし作る側が隠し味に使うのなら「加える」とか「足す」にするはずであって、食べる側がお好みで使うから「舐める」なのだ。現地の伝統的な食べ方だとスプーンは使わず右手の指で料理を口に運ぶので、まさに指に付けて舐めることになる。パキスタンや北インドの食堂でそうしている人を実際に見たし、私がそうしても周囲との違和感がなかったので、それで間違いないと思う。
 食材はどう使おうとその人の自由だと思うし、そうあるべきだと思っている。それが料理をより楽しくするのだから。しかし、知っているのといないのとで結果が違ってくることがある。例えば、日本ではカレーをシチューのように煮込んで作ることが多いが、そこに薬味であるチャトニーを入れると、そこに含まれている香辛料やハーブのせっかくの香りを台無しにすることがある。日本でも、七味唐辛子やワサビを料理の加熱中には入れないだろう。

発音について

 日本では「チャツネ」と書かれていることが多いが、それはどこの言葉からもってきたのだろうか。現地インド・ネパール・パキスタンの発音では「チャトゥニ」または「チャトニー」または「シャトニ」の方が近い。ヒンディー語・ネパール語:चटनी (chatanee)、タミル語:சட்னி (catni)、ウルドゥー語:(chatanee) چٹنی。また、これをいち早く自国に取り入れた英国でも chutney(チャトニー)なのだが・・・
 当サイトでは検索を考慮して、一応括弧書きで入れている。
 余談にはなるが、これらの外国文字のどれかをコピペして画像検索すると、オンライン料理の旅ができる。

ジャムとは違う

 欧米では甘い果物をベースに、砂糖で煮詰めて作られるようだし、日本でもジャムのように煮詰めるものだと思われていることもあるようだが、チャトニーは私の感覚だとカレーのようなスパイスの効いた料理の横に添えて、食事中に時々アクセントを加えるための薬味のようなものだ。そのため、もちろん加熱しないものもある。それは、サモサやマサラドーサといったスパイシーなスナックや軽食のタレとしても活躍している。これはインドあちこちの大衆食堂で定食や軽食、屋台でスナックを食べなければわからないと思う。
 ヨーロッパでは最初輸入していたそうだが、その後ジャムの作り方に香辛料を取り入れて自国で作るようになったようだ。これは、シチューの作り方に香辛料を取り入れたものがカレーになった(日本のカレーの先祖)のとよく似ている。
 欧米の冬季には果物や野菜が採れないので、それに備えて保存するために作られているようだ。それは、年間を通じて果物や野菜が豊富にある南アジアのものとは明らかに目的が違うし、それによって当然味も違ってくる。長期保存のためには、砂糖を多くしたり酢を加えたりしなければならないからだ。
 しかし、それが「チャトニー」と呼ばれるようになってからもう長い年月が経ち、とくにイギリスではすっかり文化に溶け込んでいるようだ。現地発のブログなどを見ると、人々はそれを作ることと食べることをとても楽しみにしているようで、この食材に対する愛をかなり強く感じる。そのため、当地でのチャトニーのジャム化に対して文句を言う気がなくなってしまった。
 ただやはり、欧米のものはカレーと同じように、南アジアのものとは別物であるという私の認識は変わらない。

素材は?

 材料はさまざまだが、ベースとなるものによって大きく分けられる。主なものでは、ココナッツ、トマト、マンゴー、コリアンダーリーフ(パクチー)、タマリンドがある。珍しいものでは、ナス、大根がある。そこに必ず塩、そしてお好みで、植物油(加熱する場合)、マスタードシード(芥子菜(からしな)の種、要加熱)、タマネギ、ニンニク、ショウガ、グリーンチリ、レッドチリ、ミント、パクチー、砂糖、その他いろいろが加わって、各家庭や店がそれぞれ独自の味を出している。
 日本でも近頃注目されてきているようだが、なんで日本の企業の市販品は余計な薬品をいろいろ使うのだろう。そんな物使わなくてもちゃんとできるのに・・・(中にはそういう物の使用を抑えているところもある)。

かんたんトマトチャトニー

1人分

 これは無塩のトマトジュースをベースに、ニンニクはおろし金ですりおろし、塩と唐辛子粉と共に混ぜるという最も単純なもの。火を使わないので調理時間なんと約20秒!。日本で具材の入っていない味噌汁を作った場合、「ふ~ん、まぁ一応味噌汁だネ」と言われるようなものだ。トマトやマンゴーベースのものには砂糖を入れるものもあるようだが、私は断然砂糖なしの方が好きだ。

混ぜた後
自家製「かんたんトマトチャトニー」(混ぜた後)
もう少しちゃんとした作り方
材料4人分

 ニンニクは硬いところを切り取って皮をむき、トマトはヘタを取り種が嫌いな人は切って取りのぞき、塩と唐辛子粉と一緒にすり鉢に入れてゴリゴリ~、またはフードプロセッサーかミキサーに入れてガガガガ~で出来上がり。これでもやっぱり簡単だ。ネパールの自炊生活では石臼で挽いてこれを作り、ダルバートの付け合わせにして毎日のように食べていた。
 これはトマトベースの基本なので、食材が手に入りやすいし構造が単純で仕組みを理解しやすい。そのため、チャトニーを初めて作る人はこれから始めてもいいと思う。この場合、各食材の役割を理解しておくために、まず書いてみることがお勧めだ。

「かんたんトマトチャトニー」の各食材の役割早見表
役割ベース(胴体)酸味と甘味と旨味香りと辛味辛味塩味
食材トマトニンニク唐辛子粉(レッドチリ)
 これを仮にココナッツベースに変えると私の場合はこうなる。食べる人の好みによって違っていていい。
役割ベース(胴体)甘味と旨味香りと辛味塩味
食材ココナッツニンニク・生のグリーンチリ

 トマトベースの場合、たった4つの食材だけなのにこれらが合わさると、それぞれ単体のトマト、生ニンニク、唐辛子粉、塩だけでは表現できない香りと味になるから不思議だ。本当の意味での化学反応ではないのだろうけれども、音でいえばピアノのどの鍵盤4つを押すかによって、単体の音では表現できないさまざまな表情が作り出せるのと似ている。あるいは絵を描くとき、絵の具4色一つ一つを別々にパレットに移し、自分が欲しい色を混ぜ合わせて作り出すのにも似ている。
 食材が増えて役割の種類が多くなってくると、より複雑な香りと味わいになる。ベースが複数ということもあり得るし、食材が変わると当然役割が違ってくる。たとえば、マンゴーはトマトより甘味が強くなるし、ココナッツは酸味がほとんどない代わりに旨味が強くなる。コリアンダーリーフ(パクチー)やミントは酸味と甘味と旨味が少なくなる代わりに香りが強くなる。
 香りと味の組み立て方がわかってきたら、あとは自分の好きなベースに変えたり、好きな香辛料や香味野菜、ハーブなどをあれこれ選んでいろいろ試してみるのもいい。作る楽しさ食べる楽しさ、好きな人なら実験する楽しさも味わえる。その点インドカレーと似ているが、チャトニーはそれほど大がかりではなく、火を使わなければずっと手軽にできるし、カレー以外の料理の付け合わせにも使える。例えばパンに付けるとか、焼肉の付けダレなどなど。
 加熱して作ると生のものより日持ちするようになるが、食材によっては生のものと香りと味が大きく違ってくるものもある。例えば、ニンニクは普通に加熱すると香りと辛味が奥へ引っ込んで旨味だけが前に出るが、油で炒めると辛味だけが引っ込んで香りと旨味が前に出てくる。また、鍋に入れるタイミングや順番を間違えると、香辛料の香りがちゃんと出なかったり、ハーブなどの香りが飛んでしまったりするので、加熱はやや上級編になる。ベースが他のものでも同じこと。

使い方

使用例:市販の白身魚フライにかけたところ。撮影後食べてみたら塩味が薄かったのでもっとかけた(笑)。

 現地の食堂で一食分に付いてくる量は、大体大さじ一杯からお猪口二杯分くらいまでだ。日本では、おでんに辛子を塗ったり、刺し身に醤油やワサビを付けたりするのに近い。トンカツにソースや醤油をかけるのにはもっと近い。
 ところがインドでは、調味料や薬味などの容器を見ず知らずの人と共用する習慣がない。つまり、日本の食堂の食卓の上になら必ずあるあの容器群がないのだ。そのため現地の食堂では、薬味やソースやタレであるチャトニーが個別に供給されているのだろうと思う。
 この「かんたんトマトチャトニー」は、他の香りや味の邪魔をしないので、カレーだけでなくいろいろな洋風料理に応用できる。例えば、トマト系のパスタ料理やピザとの相性は抜群なので薬味として使えるし、ハンバーグのソースにもなると思う。エクストラヴァージンオリーブオイルをからめたパスタにソースとしてからめ、お好みのハーブをトッピングすると大人のナポリタンになる(ケチャップを使っていないので変に甘くない)。
 上のレシピは生ものなので、加熱しなければその日のうちに使い切った方がいい。

なぜ?

 このようにチャトニーは本来、薬味とかソースとかタレとして使われる調味料なのである。
 それでは、なぜ日本で「隠し味」が主流になってしまったのだろうか?
 塩味の料理に果物や砂糖を隠し味にした場合、確かに旨味や甘みによる味のまろやかさや奥行きは増すが、味の輪郭がぼやけてしまい、写真でいえばピンボケ気味になる。また、辛子やワサビを加熱するとどうなるかおわかりだと思うが、香辛料やハーブでも同じことで、爽やかな香りと味が失われてしまう。それでは、せっかく苦心して作ったりお金を出して買ったりしたチャトニーがかわいそうだ。まろやかさや奥行きが欲しければ、果物や砂糖そのものを隠し味にすればいいのだ(私は好きでないが)。
 日本の食材の多くは昔から、ハーブや香辛料を使う必要がないほど香り高く美味しいのだと思う。だから香りの食材文化があまり発展せずにきてしまって、外来の香り系食材に対する関心とか愛着が薄いか、あるいは苦手なのだと思う。そのためチャトニーを加熱して生じるそういった部分の減少は気にならず、甘みとか旨味とかコクといった味の増加の方で喜んでしまうのだろう。これは日本人の味覚の特性だから(中には刺激的な香りが好きな人もいるが)仕方のないことなのだが、たまたま現地で食べて感動してしまった私個人としては、「・・・もっと楽しめるのに、なんで?」と思ってしまうのである・・・
 「なんで?」と書いてから、ふと思った。
 父の仕事の関係で、私は10代前半の約2年半、中近東のある都市に住んでいたことがある。小学校6年生の春か夏の学校が休みの晴れた日に、日本人学校のある先生の個人的おはからいで、この都市の旧市街にある市場(ペルシャ語のバザールではなくアラビア語でスークと言う)に初めて連れて行ってもらったことがあった。
 そこでの強烈な印象は、まずなんといっても肉屋の店先に、首を切られ皮をむかれた山羊が丸ごと逆さ吊りにされていたことだった。そして、町中から立ち上っている強烈な匂いに、本当に吐きそうになった。それは今思えば、香辛料とかスパイスなどの匂いだったのだろう。その後、学校が休みの日にはスークへ一人で買い物に行くようになり、そのうちすぐその匂いに慣れてしまった。そして、スパイスが効いた現地の料理も食べられるようになった。
 またここは国際都市で、その新市街にあるインド料理店へ両親に連れて行ってもらったこともある。店の照明は薄暗く、「ドーンパタパタパタ」という音が高音質大音量で流れていた。今思えば、タブラ・バヤという北インドの打楽器の音だったのだろう。壁には、乳房をあらわにした複数の女性たちの古典的な姿が描かれていた。私は顔を赤らめたが、それが今まで触れたことのない文化であり、それが本物であることを子供ながらに感じた。このような店の演出は、ここの料理も本物でありハイクラスであることを客にイメージさせるためのものだったと思う。
 テーブルに着いてしばらくしてから料理が運ばれてくると、店の人が父に英語でなにか説明をした。父は「料理が辛かったらこれを舐めるといいそうだよ。」と通訳してくれた。示された自分の目の前の小鉢の中を見ると、そこにはスプーン1杯ほどの茶色いジャムのような物が入っていた。
 さて、メインの料理を食べた瞬間「辛い!」とは思ったが、それは限界の範囲内だった。ところが、食べていくうちにだんだんと限界を超えてきたので、恐る恐る先ほどの小鉢の物を舐めてみると、ほんのり甘酸っぱかったが、口の中の辛さがあっという間に消え去ったので、魔法みたいだと思った。それは生まれて初めての体験だったので、これは何かと父に尋ねると、父は店の人に聞いてくれて「キノコだって」と訳してくれた。
 今思えばその味からして、マンゴーをベースにして何種類かのスパイスを加えたものだったんだろう。その中に辛味を消し去る成分を含んだものが混ざっていたのだと思う。砂糖ではこうはいかない。例えば日本の市販のキムチには必ず砂糖が添加されているが、甘辛くなるだけで辛みそのものが消えることはないからだ。父は欧米のことには詳しいが、南アジアの文化や食材に対する知識はそれほどなかったと思う。それでマンゴーという果物の存在は当時まだ知らなかった可能性があり、自分なりの解釈で訳したのかもしれなかった。
 とにかく、料理を食べているうちにまた口の中が辛くなったので、また前のものを舐めて辛味を消した。なるほど、こうして食事を楽しむのがハイクラスのインド料理なんだということを自分なりに理解した。要するに、スパイスをとことん楽しむ料理なのである。今思えばその小鉢の中身がチャトニーだったわけで、もちろん私の初体験だ。
 誰でもそうだと思うが、この年頃の体験というものは体に浸み込んでしまう。言い方を変えれば、私には子供の頃からスパイスに対する免疫ができてしまっていて、チャトニーの使い方も学んでいたのだ! だから大きくなってからも、南アジア各地のスパイシーな料理にすぐ対応できたのだろう。そのような者は日本では少数派であって、その感覚は大多数の人には通用しない。だから「チャトニーは隠し味ではない!!!」と日本語で声を大にして叫んでも、誰も聞いてくれないだろうということが、これでやっとわかった。
 それなら隠し味でもいいではないか。ワサビを隠し味にしてシャリを炊く寿司や、辛子を隠し味にして炊くおでんがあってもいいではないか! と同じだと思えば納得がいく。それでだんだんと気分が落ち着いてきたので、この稿を終えることにする。

インドカレーの概念については、インドカレーの楽しみ をご参照ください。
他のレシピ: 菜食 (vege) 大根葉のカレー ナスのインドカレー オクラのインドカレー タケノコのインドカレー じゃが芋と大豆のインドカレー
非菜食 (nonvege) キーマカレー サバのヨーグルト煮込みインド風
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